「伝えた」と「伝わった」の間にあるもの

~3時間の保育研修を終えて、あらためて感じたこと~

9月20日、3時間の保育研修を担当させていただきました。

今回の保育研修で大切にしたかったのは、知識を覚えていただくことではなく、実際に体験し、自分自身で「気づく」こと。

ところが今回は、ちょっとしたハプニングからのスタートでした。

もともとはリアルで実施する予定でしたが、台風の影響を考え、前日になって急きょZoomでの開催に切り替えることになりました。

「さて、どうしよう。」

資料をそのままZoomで説明するだけなら、それほど難しいことではありません。

でも、今回の研修で私が大切にしたかったのは、知識を伝えることではなく、実際に体験して、自分自身で気づいてもらうことでした。

だから、リアルで予定していたことを、できるだけ同じようにZoomでも体験していただきたい。

そこから、ほぼ一日かけて研修のやり方を組み直しました。

Zoomになっても、どうしてもやりたかったこと

中でも、どうしても外したくなかったのが「ブラインドドローイング」です。

一人がある絵を見ながら、言葉だけで説明する。

もう一人は、その説明だけを頼りに絵を描く。

説明する人には見えているものがあります。

でも、描く人には見えていません。

頼りになるのは、相手の「言葉」だけです。

そして最後に、もとの絵と描いた絵を見比べてみます。

すると……

やっぱり、ズレました(笑)。

でも、この「ズレた!」という瞬間こそ、今回の研修で体験してほしかったことでした。

保育研修で見えてきた「ズレ」の理由

今回の研修では、

前半に、絵を通して

「気づくこと」「受け取ること」

を体験していただきました。

そして後半は、

気づいたことを、相手に届ける力

について、皆さん自身に体験していただきました。

ブラインドドローイングをやってみると、いろいろな声が出てきます。

「見たままを説明するって難しい」

「何から話せばいいのかわからなかった」

「自分では伝えたつもりだった」

「もっと順番を考えて話せばよかった」

「聞く側も、もっと質問すればよかった」

そうなんです。

ズレが起きた理由は、単に「説明が下手だったから」ではありません。

伝える側にも、受け取る側にも、できることがある。

それを誰かに教えられるのではなく、自分たちの体験から気づいていく。

私は、そこをとても大切にしたかったのです。

「伝えたつもり」は、保育の現場にもある

そして、これはゲームの中だけの話ではありません。

子どもへの声かけ。

保護者への説明。

職員同士の申し送り。

「ちゃんと言ったのに」

「説明したはずなのに」

「どうして伝わっていないんだろう」

保育の現場でも、こんな小さなズレは日々起きているのではないでしょうか。

保育所保育指針でも、自分の思いを言葉で伝えることだけでなく、相手の話を聞き、言葉による伝え合いにつなげていくことの大切さが示されています。

私たち大人も、「伝える」だけでなく「どう受け取られたか」を考えることが大切なのかもしれません。

でも、

「伝えた」ことと「伝わった」ことは、同じではありません。

自分には見えていることが、相手にも同じように見えているとは限らない。

自分の中では当たり前のことが、相手にとっても当たり前とは限らない。

だからこそ、

「どう伝えれば、相手に届くだろう」

そして、

「わからないときに、どう聞けばいいだろう」

その両方を考えることが大切なのだと思います。

体験型の保育研修だからこそ、生まれた言葉

今回の保育研修で、私が何よりうれしかったのは、

「こうすればよかった」

「次はこう伝えてみよう」

「聞く側も、こう質問すればよかった」

と、皆さん自身から改善や工夫が出てきたことでした。

講師である私が、

「こうしてください」

と答えを伝えたのではありません。

体験したからこそ、自分たちで考え、自分たちなりの答えを見つけていく。

まさに、今回の研修でつくりたかった時間でした。

研修を受けたその日だけ、

「勉強になった」

「楽しかった」

で終わるのではなく、

明日、子どもと話すとき。

保護者に何かを伝えるとき。

職員同士で声をかけ合うとき。

ふと、

「ちゃんと伝わっているかな?」

と思い出してもらえたら。

それだけでも、関わり方は少し変わるのではないかと思っています。

急きょZoomになったから、私にも気づきがあった

そして今回、気づきをもらったのは参加者の皆さんだけではありませんでした。

前日にZoomへの変更が決まり、

「リアルでやる予定だったから、これは無理」

と諦めるのではなく、

「どうすればZoomでも同じ体験をしてもらえるだろう」

と、私自身も一日考えました。

振り返ってみると、これも今回の研修テーマと同じだったのかもしれません。

こちらが「伝えたい」と思っているだけでは届かない。

相手がどう受け取るのかを考えて、方法を変える。

研修をつくる側の私自身も、そんなことを体験した一日でした。

保育研修から、ひとつだけ明日へ持ち帰ってもらえたら

私は研修のたびに、

全部覚えて帰っていただかなくてもいいと思っています。

たくさんの知識を詰め込むことより、

「これ、明日やってみよう」

と思えるものを、ひとつ持って帰っていただきたい。

今回の3時間では、

前半で、

気づく → 受け取る

そして後半で、

言葉にする → 伝え合う

という体験をしていただきました。

その先にあるのが、

関わりを変えること。

今回、皆さんの中からたくさんの気づきや工夫が生まれたことが、本当にうれしかったです。

前回、研修を準備しながら私は、

「わかる」より、「わかろうとする」時間をつくりたい

と書きました。

前回の記事「『わかる』より、『わかろうとする』時間をつくりたい」

実際に研修を終えた今も、その思いは変わりません。

むしろ、もっと強くなりました。

相手のことを全部「わかる」ことはできなくても、

わかろうとする。

伝えようとする。

そして、伝わったかどうかを確かめようとする。

その小さな積み重ねが、子どもとの関係にも、保護者との関係にも、そして職員同士の関係にもつながっていくのだと思います。

台風から始まった、予定外のZoom研修。

でも終わってみれば、私にとってもたくさんの「気づき」が残る3時間になりました。

参加してくださった皆さま、本当にありがとうございました。